乳がんの悪性新生物に対する治療法として、専用の針を穿刺し熱を加え焼灼することで局所的かつ低侵襲に治療を行うラジオ波焼灼療法が注目されている。本療法は、針を刺すだけで治療が行え、身体への負担が非常に小さい療法ではある。しかしながら、医師が自身の視覚や触覚を駆使し、がんの位置を判断した上で穿刺を行い、針先端でがんの焼灼を実施している。さらに、対象とする臓器は柔らかく、穿刺を行っていくと、臓器が変形し、ターゲットとなるがんの位置が変化する。そのため、がんの位置に正確に穿刺をすることが困難である。
乳がんを対象とする針刺し支援ロボットにおいても、正確な位置決め(誤差:1mm程度)を実現する手法を提案した。これは、生体組織の非線形性を利用し、針を刺入する前に、棒状の圧子で乳房に穿刺前に加圧することで、針刺入時の乳房の変形を抑制する手法である。粘弾性試験機を用い、乳房を構成する各組織の弾性率を実測した結果(項目A01)、組織に外力を付加した際には、がん組織が正常組織よりも応力に対する歪の増加率が高くなること(非線形性)が定量的に示された。この特性を応用し、圧子針一体型乳がん治療ロボットシステムに組み込むことにより、本手法の評価を実施した。
生体軟組織のモデリングの成果を医用ロボットシステムの制御に活用する研究を実施し、出臓器実験や動物実験により妥当性・実用性を実証した。これらは、変形シミュレーションを利用した医用ロボットの制御手法としては、世界的に先駆けて実施された研究である。
それまでの医療ロボットの研究開発においては、ゴム材料等を模擬対象として評価を実施する例が多かった。申請者の研究では、基礎物性値の取得、そのモデル化、軌道生成・制御手法の実証実験という一連の研究において、一貫して「摘出臓器、in vivoの臓器」から取得したデータを用いてモデル化・評価していることに特色がある。
<主要論文>
Yo Kobayashi*, Makiko Suzuki, Atsushi Kato, Maya Hatano, Kozo Konishi, Makoto Hashizume and Masakatsu G. Fujie, “Enhanced Targeting in Breast Tissue using a Robotic Tissue Preloading-Based Needle Insertion System”, IEEE Transaction on Robotics, Vol.28(3), pp. 710-722, 2012, http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=6144750
Yo Kobayashi*, Maya Hatano, Makiko Suzuki, Yasuyuki Shiraishi, Tomoyuki Yambe, Makoto Hashizume, Masakatsu G Fujie, "Preloading based needle insertion with a concave probe to enhance targeting in breast tissue", ROBOMECH Journal, 1:17, 2014, http://www.robomechjournal.com/content/1/1/17/abstract
<関連論文>
Yo Kobayashi, Makiko Suzuki, Kozo Konishi, Makoto Hashizume and Masakatsu G. Fujie, “Development of a Novel Approach,“Palpation Based Needle Insertion,” for Breast Cancer Treatment” in 2008 IEEE International Conference on Robotics and Biomimetics (Robio’08), pp. 505-511, 2008
Yo Kobayashi, Makiko Suzuki, Atsushi Kato, Kozo Konishi, Makoto Hashizume and Masakatsu G. Fujie, “A Robotic Palpation-Based Needle Insertion Method for Diagnostic Biopsy and Treatment of Breast Cancer”, in Proceedings of 2009 IEEE International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS’09), pp.5534-5539 , 2009