トレッドミルを用いた屋内型歩行リハビリシステム

超高齢社会を迎えた日本において,高齢者の身体能力の維持は,寝たきり患者への予防や廃用症候群の形成を防止するだけでなく,ADL(Activity of Daily Living)の維持,QOL(Quality Of Life)の向上にもつながり,大変重要である.その中で,株式会社バンダイナムコゲームスの太鼓の達人RT やワニワニパニックRT,ドキドキへび退治RT などに代表されるよう,自宅や施設などの屋内でも手軽に楽しみながらリハビリを行うことで,身体能力の維持に寄与する機器が注目されている.しかし,これらの機器は,打つや叩く,踏むなどの特定動作に利用が限定されており,日常生活において最も重要な歩行動作のリハビリとして効果が小さい. そこで,株式会社日立製作所のPW-10 では,利用者の歩行速度に応じて変化する画像を前方のモニターに提示することで,利用者のやる気を高めながらトレッドミル上の歩行リハビリを提供するシステムを提案している.また,筑波大学の没入型歩行リハビリテーションシステムでは,歩行感覚呈示装置と没入型ディスプレイを組み合わせた歩行リハビリテーションシステムの開発を行っている.しかし,前者の機器では,高額であるにも関わらず,トレッドミル上で歩いた感覚が平地での歩いた感覚と異なり,利用者が大きく違和感を持つため,機器の利用が促進されず,普及に至っていない.また,後者の機器では,下肢の足部を固定し,下肢の動作を誘導するため,利用者は強制的な歩行となる.そのため,この機器においても,平地での歩いた感覚と異なり,効果的なリハビリを行うことは困難であると考えられる.

そこで,本研究では,人間が本来持つ歩行機能を維持するために,平地を歩行するような感覚で,楽しみながら可能なリハビリシステムを安価に開発することを目的とする.具体的には,利用者の蹴った力に応じて回転するため,平地のように自然に歩きやすいトレッドミルと,利用者の感性価値を考慮することで,加

減速時に違和感のない3 次元のバーチャル画像を用いて,屋内にいながらも,まるで実際に平地を歩いているような感覚を与える新しい歩行リハビリシステムを構築する.

本稿では,特に,提案する歩行リハビリシステムの開発の基盤としてこれまで取り組んできたトレッドミ

ルの評価について報告する.具体的には,トレッドミル上での歩行動作を運動力学的に解析し,平地歩行との差異を計測し,この蹴り力に応じて回転するトレッドミル上で平地のように自然な歩行が再現されているかの検証を行うことを目的とする.

本文章は,「1. 中島 康貴,安藤 健,小林 洋,藤江 正克,“利用者の蹴った力に応じて回転するトレッドミルを用いた屋内型歩行リハビリシステムの提案” ,第12回 計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会,2H1-2,2011」 を一部抜粋し,再編集したものである.