手術支援ロボットシステムの発達

  ロボット技術の向上をうけて近年,より質の高い外科医療を実現するために手術支援ロボットシステムの研究開発が盛んに行われるようになった[4].手術支援ロボットシステムの導入によって,従来になし得なかった低侵襲外科手術 (minimally invasive surgery) が実現され患者にとって医学的・経済的に良好な結果が得られることが期待されている.Table 1はTaylor らによる人間とロボットとの能力比較である[4].表中にあるようなロボット技術が得意とする高精度位置決め等の処理を活用することで,術者の施術能力拡大・手術の安全性確保・術中の多様な情報取得,といった恩恵を得ることが可能になる[4].
  佐久間らは実用化の段階にあると考えられている手術支援ロボットシステムについて,制御形態から「術前計画固定作業型」と「術中フレキシブル作業型」の2 種類に分類している[14].「術前計画固定作業型」の手術支援ロボットシステムは,術前の手術計画を精確に再現するように手術ロボットを術中に精密に運用することに主眼をおいて開発されている.「術中フレキシブル作業型」の手術支援ロボットシステムは,術中に医師の微細な作業をサポート・術者の能力を拡張または補助するものとして開発されている.手術ロボットシステムとして現在までに臨床の実績があるものでは,「術前計画固定作業型」ではROBODOC(Integrated Surgical Systems 社, Curexo Technology 社 [1])が,「術中フレキシブル作業型」ではda Vinci SurgicalSystem(Intuitive Surgical 社 [2])が,それぞれ代表例として挙げられる.ROBODOC は股関節の人工関節置換術を対象とし,大腿骨に人工関節を接続するための穴を掘削する手術ロボットである.X 線CT やMR 装置から得られた3 次元位置情報から術前計画をコンピュータ支援のもと作成し,これにしたがってロボットの制御を行うことで,精確な大腿骨の掘削を可能にしている.da Vinci Surgical System はマスタ-スレーブ(master-slave)型内視鏡下手術用のロボットである.主に胸腹部の手術を対象にし,心血管外科手術や胆嚢摘出手術において世界的に実績を増やしている.スレーブマニピュレータの先端に自由度を持たせることによって,内視鏡環境下においても多様な手技を行うことを可能にしている.「術前計画固定作業型」と「術中フレキシブル作業型」のそれぞれの手術支援ロボットシステムを導入する医療上の恩恵について,次のことがいえる.

1. 「術前計画固定作業型」の手術支援ロボットシステム
 術前計画や術中画像情報とロボットの制御を統合することによって,人間の手では再現不可能なレベルの高精度で効率的な術具の運用を可能とする.

2. 「術中フレキシブル作業型」の手術支援ロボットシステム
体内で十分な自由度を確保するなど,従来の術具では不可能だった術式を可能にする能力を術者に与える.また,マスタ-スレーブシステムを利用し,マスタの操作を任意の倍率でスレーブに反映したり手振れを補償したりすることにより,術具の精緻な運用を可能とする.さらに,マスタ-スレーブシステムを利用した遠隔操作も可能であり,遠隔医療に適用可能である.

  これらは,従来よりも優位性を持った手術を達成するものである.このほか,手術支援ロボットシステムの導入により,手術の定量的記録が可能であることも医療上重要な利点である.

Table 1


[1] Curexo technology corporation, http://www.robodoc.com/.
[2] Intuitive surgical, inc., http://www.intuitivesurgical.com/.
[4] Russell H. Taylor, Arianna Menciassi, Gabor Fichtinger, and Paolo Dario. Medical robotics and computer-integrated surgery. In Bruno Siciliano and Oussama Khatib, editors, Springer Handbook of Robotics, pp. 1199–1222. Springer Berlin Heidelberg, 2008.
[14] 佐久間一郎. 手術支援ロボット・機器における画像計測. Medical imaging technology,Vol. 22, No. 3, pp. 137–142, 2004-05-25.

*本文章は,「星雄陽 博士論文 接触力計測と超音波画像を用いた臓器物理モデルの弾性率値分布同定に関する研究」を一部抜粋し,再編集したものである.

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