アイデアを明確にすることの重要さ
私は研究者であり,論文を書くこと,研究をすること,学生を教育すること,(研究を持続的なことにするために)プロジェクト提案書を書くこと等が主要な仕事である.それぞれ別途な仕事に見えるが,最もコアな部分は一緒である.それは,「ある課題を解決する研究のコアとなるアイデアを明確にすること」である.おそらく,上記の考え方は,工学だけではなく,ビジネスも含めた様々な分野においても最も重要な考え方の一つである(参考文献[1]などを参考).本項目に関して,論文を例に以下に説明する.
一般的に論文の校正は, 1.Introduction, 2.Method, 3.Result, 4.Discussionから構成される.各項目に関して記述すべきことを以下に記載する.
1. Introduction(序章)
1.1 Background(背景)
対象とするアイデアにつながる社会的な背景を記載する.
例)社会的に医療費の削減が求められており,患者の身体的負担が少ない低侵襲手術が望まれている.
1.2 Motivation(目標)
対象とするアイデアにつながる研究の大枠(どの領域を対象とした研究)を記載する.
例)低侵襲手術を安全に実施するため,手術支援ロボットが必要とされているため,本研究ではその開発を目標とする.
1.3 Related work(先行研究)
Motivationで記載した療育における先行研究を記載する.この際,後でアイデアのオリジナリティ(新規性)を主張するために必要な先行研究を選択する必要がある.
例)様々な手術支援ロボットが開発されている.
1.4 Objectives(目的)
先行研究において技術的に解決されていない課題を明確にし,その中から論文で取り組むアイデアを明確にする.この部分が論文のコアであり,最も重要な部分である.
例)先行研究の手術支援ロボットには「***」という機能は搭載されていない.本論文においては,その機能のアルゴリズムに関する研究を実施した.さらに提案したアルゴリズムを生体組織を用いた実験によって検証した.
2 Method (方法)
実際に何を実施したか記載する項目.この際には,アイデアを実証するために適切な方法で実験をしている必要がある.また,後のResultやDisucussionで記載することに関する実験条件は記載する必要がある.
3 Result (結果)
実験結果を記載する項目.淡々と実験結果およびその結果から明らかに言えることだけを記載する.実験結果がアイデアを実証している必要がる.
4 Discussion (考察)
実験結果から得られた考察を書く項目.大きくContribution(貢献)とLimitation(制限:論文中で実証できていない項目を記載する)に分かれる.基本的には定義したアイデアの実証が主要なContributionとなる.また,アイデアには技術的に直接関係ないが,論文の技術を実現場に適用する際に,今後必要となる項目をLimitationに記載する.
つまり,アイデアが明確に定義されていない論文,定義されたアイデアの実証に適切でないMethodである論文,定義されたアイデアを実証する実験結果が得られていない論文,Discussionにおいてアイデアを実証できた範囲と今後何をする必要があるかが明確になっていない論文の価値は低いと言える.このように,アイデアをコアに入れ子の構造になっているのが論文執筆における基本であり,それができていない論文は,「主張が読者に伝わらない」という事態が発生するため,研究内容がよくても評価される論文にはなりえない.よい論文とは,「アイデア(主張)が明確に伝わり,それが適切な方法で実験された結果によって実証されている.さらに,アイデアの範囲が明確になっている」論文である.大学の研究室で論文執筆の指導をしていると,上記の枠組みでは書けない,という学生が散見するが,その場合は,本人が自分のアイデアを明確に理解できてない,もともとアイデアが明確ではない研究を実施している,といった問題がある.
まだ研究歴の浅い若輩者が記載した文章ではあるが,皆様のご参考になれば幸いである.次回以降のTipsにおいて,研究をすること,学生の教育に関して,プロジェクト提案書を書くこと,において,上記の考え方をどのように当てはめていくかを記載していく予定である.
参考書籍
[1] イッシュ―からはじめよ
[2] これから論文を書く若者のために